矢作川研究所日記

2023/11/25

太田川(だいたがわ)河川愛護会のワークショップを行いました

矢作川研究所では水辺愛護会の活動の継承と発展を目指して、水辺愛護会の願いや想いを込めた「管理活動計画図」を作成しています。これまで、6つの水辺愛護会(大河原水辺愛護会、百々水辺愛護会、初音川ビオトープ愛護会、古鼡水辺公園愛護会、梅坪水辺愛護会、矢作自治区水辺愛護会)を対象に、管理地の特性などを活かした個性豊かな管理活動計画図が作成されてきました。

今回は、太田川河川愛護会の管理活動計画図を作成するための、第一回目のワークショップを大内町公民館で行いました(司会進行役は、洲﨑主任研究員)。平松会長をはじめ会員6名の方にご参加いただき、これまでの水辺愛護活動のふりかえりや、現時点での成果と課題についてお話を伺いました。

印象的だったのは、会員の方が地元の自然環境について詳しく、たくさんの動植物の名前や生態情報を知られていたことです。会員の方が子ども時代から川での生き物とりを楽しんでおり、太田川の豊かな自然を体感されてきた賜物と言えそうです。豊かな自然を有する太田川で「子どもたちや孫たちにも、川遊びを楽しんでもらいたい」という想いが水辺愛護活動の目的の一つになっていることも、自然な流れと言えます。会員の方は、子どもたちが遊ぶ人気の場所についてもよくご存知でした。優しいまなざしで川を見られているんだなと感じました。

草刈りの成果として、人が川に近づきやすくなったり、ゴミが少なくなったりしたことが挙げられました。草刈りの際の課題としては、傾斜面やイノシシによって凸凹になった地面での草刈りが危険という意見がありました。興味深かったのは、「水際まで草刈りしすぎることで、魚が鳥に食べられすぎていないだろうか」という懸念が挙げられたことです。子どもやお孫さんに川に近づいてもらうためには草刈りは必要だけど、魚が鳥に食べられすぎないようにするためには水際の草は残したい…太田川河川愛護会ならではのジレンマの一つと言えそうです。

今回のワークショップで出た意見などを基に、「これからの目標と活動方法」について検討する第二回目のワークショップが1/27に予定されています。太田川河川愛護会ならではの管理活動計画図が描かれると良いなと思っています。

(補足)
 このワークショップで魚の話が出たので、11/28に太田川で魚類採集をしてみました。次の予定が迫っていたため、僅か5分程度の採集でしたが、たくさんの魚がとれました。水際にも降りやすく、子どもたちも楽しみやすい川の一つではないかなと感じました。なお、太田川の自然環境については「矢作川研究」の8号に詳しい報告(内田ほか2004)が掲載されています。

                                   報告:小野田 幸生



2023/11/14

「ふるさとの川づくり」に関連した教育活動で、豊田市立平井小学校が第54回博報賞奨励賞に選ばれました。

受賞の喜びに沸く平井小学校の尾坂校長先生(左)と筆者(右)

岩本川における教育活動の様子

博報賞とは、教育現場の活性化と支援を目的としたもので、学校や団体、教育実践者を表彰するものです。平井小学校が表彰を受けたのは、近くを流れる岩本川を対象とした一連の教育活動で、「日本文化・ふるさと共創教育」部門での受賞となりました。

平井小学校では、岩本川が「ふるさとの川づくり事業」に選定されたことをきっかけとして、地域の方(岩本川創遊会など)とともに魚とりなどの川学習を実施してきました。なかでも、地域の年長者の方がガキ大将の役割を担うことで、古き良き時代の生きものとの触れ合いが展開されたことは、特徴的な事の一つでした。「ふるさとの川づくり事業」を進める中で、地域の方から「岩本川を子どもたちの遊べる川に」という目標が掲げられましたが、それが見事に実現した一例と言えるのではないでしょうか。

矢作川研究所の研究員も、魚とりの講師や解説などを分担させていただきましたので、平井小学校の教育活動や地域の方の想いが外部機関の方にも認められたことを大変嬉しく思います。平井小学校の皆さん、岩本川の関係者の皆さん、おめでとうございました!
              報告:山本 大輔

■参考HP
(博報堂教育財団HP審査員の方による講評等)
 https://www.hakuhodofoundation.or.jp/prize/recipient/2023/24.html
(平井小学校HP博報賞受賞報告※「新着情報」の記事のためアドレス変更の可能性あり)
 https://www2.toyota.ed.jp/swas/index.php?id=s_hirai&frame=weblog



2023/11/10

水辺愛護会の現地研修会を行いました

 豊田市河川課と矢作川研究所は、川辺の保全活動を行ってくださっている水辺愛護会の皆さんの知識向上をはかるための現地研修会を年1回行っています。今年度はあいにくの雨天となってしまいましたが、碧南海浜水族館と、初音川ビオトープを見学してきました。

 碧南海浜水族館は三河湾や矢作川のほか、日本沿岸の魚類を中心に約260種類の生き物を展示しています。また、カワバタモロコやウシモツゴなど、絶滅のおそれがある日本産希少淡水魚の調査や保護、展示も行っています。矢作川の上流から下流にかけての環境がジオラマで再現されており、愛護活動をしている水辺の先にある川の中にどんな生き物がいるかを学ぶことができました。バックヤードツアーでは、大水槽を上から見たり、餌づくりの様子や、大きな冷凍庫に保管された標本を見せて頂くことができました。4年前に完成した屋外のビオトープでは、生息する動植物を紹介する看板などをボランティアの方が工夫をこらして作っていたのが印象的でした。


碧南海浜水族館のビオトープ


 初音川ビオトープでは副会長さんが、この日のために特別に掲示板を立てて活動紹介をして下さいました。参加者の皆さんは、企業ボランティアも巻き込んで実施している外来種の駆除や、きめ細かく計画を立てて植生管理を行っている話に耳を傾けておられました。往復のバスの中では「百々水辺愛護会の養蜂を見学したい」といった声が出るなど、今年新しく立ち上がった会も含め、愛護会同士の交流が進んだ手ごたえも感じることができました。(洲崎燈子)



2023/09/29

アユと水生昆虫の調査をしました

友釣りの時期も終わりに近づいてきましたが、矢作川中流ではまだまだアユのハミアトはたくさん見られ、潜水ではアユの姿も見られました。

ハミアトはアユが石に付いた付着藻類を食べる時に付く痕跡なのですが、魚類以外にも多くの水生昆虫が付着藻類を食べます。中でもヤマトビケラ類はアユと餌を取り合うだけでなく、ヤマトビケラ類がたくさんいる川底ではアユが減っているとの報告もあります。近年、矢作川中流の石の上にもたくさんのヤマトビケラ類が見られるようになり、釣り人からもヤマトビケラ類がたくさんいる時期にはアユが釣れないとの話しをお聞きしました。


アユ


アユのハミアト


ヤマトビケラ類は細かい砂粒を利用してドーム型の巣を作り、その中に入って生活します。幼虫はその巣を背負いながら石の上の付着藻類を食べて暮らし、蛹になると一カ所に集まって固着することが多く、その後成虫となり陸上へ飛び立ちます。


ヤマトビケラ類の巣と幼虫


今回はこのアユとヤマトビケラ類の関係を調べるため、平成記念橋周辺で調査を行いました。ヤマトビケラ類は石の表面だけでなく、側面や下面にも生息しており、多い時は一つの石に数十個体も確認されました。


川底を歩くと,砂や有機物などが舞うため、餌を食べに魚類が集まってきます。調査の際にはアユに加え、スゴモロコ属、オイカワ、アカザ、カマツカ属、カワヨシノボリなど多くの魚類が見られました。


スゴモロコ属やオイカワ


カワヨシノボリ



2023/07/20

矢作川水源の森づくり合同研修会に参加しました

矢作川流域の約7割は森林に覆われており、そのおよそ半分の面積を人工林が占めています。スギやヒノキといった、水消費量が多い常緑針葉樹で構成される人工林は、適正な間伐が行われないと、水源かん養機能や土砂災害抑制機能が劣化することが指摘されています。
人工林の間伐が進まない原因の一つが、林業現場技術者の減少であり、背景には林業の労災発生率の高さがあります。労働者千人あたりの死傷者数は全産業平均が2.7なのに対し、林業は24.7と、9倍以上になっています(2021年)。

林業の現場で労災を減らすには、従来の「親方の背中を見て学べ」式ではない、系統立った技術教育が必要です。豊田森林組合は2021年度から新入職員に、科学的で安全な林業技術を学ばせることに力を入れてきました。その技術教育を含めた人材育成方法を矢作川流域内で広めるため、根羽村森林組合(長野県根羽村)、恵南森林組合(岐阜県恵那市)、岡崎森林組合(岡崎市)と合同で、初めての「矢作川水源の森づくり合同研修会」が開催されました(主催:矢作川流域圏懇談会山部会)。

午前中は座学で、豊田森林組合が人材育成のため、豊田市、岐阜県立森林文化アカデミーとの連携協定を締結したことや、人材育成にあたる総合職の枠を7人分設けたことが紹介されました。この7人は、林業技術者のリーダーを育てるトレーナーズトレーナーの第一人者の元で学び、新入職員の指導にあたっています。
午後は、林業の現場を再現した訓練ができる伐倒練習機(MTW-01)を使って、各森林組合の職員が日頃の伐倒の技を披露し、豊田森林組合の担当職員が、安全で確実な伐倒を行うための詳細な助言をしました。

この研修会では、立ち位置や体勢といった体の使い方、正しい道具の使い方を身に付けるのは決してむずかしいことではなく、それらに習熟することで、林業の現場の安全性が確実に高められることが共有されたと思います。参加した豊田市森林課長の、「森づくりには流域単位の連携が必要。この流域が森づくりの視点で日本一注目されるようになるといい」という言葉に共感しました。(洲崎燈子)