カタカイガラムシの仲間を見つけました

2024/05/20

 5月中旬、研究所の敷地内に生えたヤツデの葉の裏に、扁平で不思議な形をした生きものを見つけました(写真1)。大きさは3~4mmくらい。一枚の葉にいくつか付着していました。葉の一部を切り取って実体顕微鏡で観察すると、体全体が葉裏に密着しており、動く気配はありません。ピンセットを使って体を裏返してみると、もぞもぞと動く3対の脚を確認できました(動画)。体の尾端が中央に向かって深く切れ込んでいるなどの特徴から、カメムシ目カタカイガラムシ科の仲間であることが分かりました。大きさと形態から雌成虫と分かりましたが、残念ながら種まで同定することは出来ませんでした。

 この時期は産卵期のようで、雌成虫の近くに孵化して間もない幼虫も確認できました(動画)。幼虫の大きさは約0.3mmと非常に小さいですが、1対の眼と触角や3対の脚が明瞭で、成虫に比べると昆虫らしい姿をしています。小さいながらもヒョコヒョコと歩き回る姿はとてもユーモラス。自由に動き回ることができるのは若齢幼虫の時期(「歩行幼虫」と呼ばれる)だけで、いい場所を見つけて定着するとほとんど移動しなくなるようです(写真2)。


写真1 雌成虫。体の前部上下にある黒い点は眼。右隅の丸いものは幼虫。


写真2 定着したと思われる幼虫。動画の歩行幼虫とは異なり、体が葉裏に密着している。


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動画 成虫を裏返した様子。後半に現れるのはふ化後間もないと思われる幼虫(歩行幼虫)。



 ヤツデの葉裏で見かけた雌成虫の中には、背中の一部が黒くなっている個体が含まれていました(写真3)。シャーレに入れて実体顕微鏡で観察していると、雌成虫の背中に丸い穴があき、中から小さな蜂が!(写真4)。カイガラムシには様々な種類の寄生蜂が報告されており(例えば立川、1957)、出てきたものは寄生蜂の一種と考えられますが、その正体は謎のままです。蜂が出てきた雌成虫は死んでしまいましたが、裏返すとおなかにはたくさんの卵と幼虫を抱えていました。寄生した蜂は最終的に雌成虫を殺してしまいますが、繁殖には影響を及ぼしておらず、そこにはなにやら複雑な関係が存在しているようです。


写真3 背中の一部が黒くなっている雌成虫。一番右の個体は背中に穴があいている。


写真4 穴から出てきた寄生蜂の一種。


 カイガラムシの仲間は国内で約400種が記録されており(河合、1980)、様々な植物で見ることができる身近な生きものです。見た目だけでなく生態もかなり不思議で、雌は他のカメムシ目と同様に蛹にならずに翅を持たない成虫になりますが、雄は蛹になって翅を持つ成虫になります。しかし、雄が見つかっていない種もたくさんいるようで、それぞれの種の繁殖生態は、害虫とされる種を除くとよく分かっていないのが現状です。まずは同定作業を進めながら、孵化した幼虫がどのように成長していくのか、寄生蜂との関係がどのようになっているのか、雄成虫は出現するのかなど、今後も観察を続けてみたいと思います。(浜崎健児)

【参考資料】
河合省三(1980)日本原色カイガラムシ図鑑.全国農村教育協会.
立川哲三郎(1957)日本産Coccophagus クロヤドリコバチ属(新称)とその寄主.日本応用動物昆虫学会誌.1(1):61-64.


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